「ミキサー完備・スタジオ貸します」に出演したあの日

音楽事象

高校の頃、いつもラジオ放送のABCヤングリクエストに耳を傾けていました。
中でも「ミキサー完備・スタジオ貸します」というコーナーは別格で、担当のキダ・タローさんがアマチュアバンドを紹介し、放送局の本格的な機材で音を作ってくれるという夢のような企画でした。
自分もバンドをやっていたので、「一度はここで演奏してみたい」と思い、軽い気持ちで応募したところ、幸運にも当選通知が届きました。
あの知らせを見たときのメンバー全員のはしゃぎようは、今でも懐かしい思い出です。

収録当日、メンバーとスタジオの重厚な扉を押し開けた瞬間、普段とは違う空気に包まれました。
壁一面の防音パネルと整然と敷かれた吸音マット、そしてコンソール越しにひかる小さなランプ類。
ブースの奥には背の高い黒いギターアンプが鎮座しており、思わずケーブルを差し込んで弾いてみると、耳に届く音が驚くほどクリアで細部まで響きました。
機材一つでこれほど違うのかと感動したのを覚えています。

ドラムはなぜかライド・シンバルが一枚だけでしたが、スネアもバスドラムも実にタイトに調整されていました。
ハイハットのペダルの遊びがちょうどよく、叩くたびにしっくり手に馴染む。普段の練習とは違い、モニター越しに自分たちの音がまとまって返ってくる感覚は、やはり格別でした。
オンエア直前、エンジニアが軽くフェーダーを触って「行けるよ」と合図してくれたのが頼もしかったです。

「3、2、1、オンエアー」の声で本番開始。キダ・タローさんの紹介を受け、僕たちは寺内タケシとバニーズの名曲「ある晴れた日に」を演奏しました。
イントロでベースが一瞬外れたものの、ドラムのフィーリングは抜群で、思わず笑みがこぼれるほど叩きやすかったです。
「さすが、放送局のスタジオ」と感心しながら演奏しているうちに、あっという間に曲が終わってしまいました。

演奏後、キダ・タローさんからフレージングやバランスについて的確なアドバイスをいただき、スタッフとも音作りの話で盛り上がりました。
帰り道、歩きながら耳に残るフレーズを反芻しつつ、「自分たちの音がラジオの向こう側で流れていた」という実感に満たされていました。
翌日、学校でのちょっとした噂話や仲間の驚いた表情も含めて、あの日の体験は今でも自分の音楽観を形作った大切な1ページです。

関連記事

デジイチ写真

TOP
CLOSE