お米の値段の怪

日々是好日

最近のお米の価格、なんだか不思議な動きをしていると思いませんか?
「新米が出回っているのに、5kgで4,000円以上もするなんて…」と、スーパーの棚の前でため息をついた方も多いのではないでしょうか。

実は、2025年の秋から2026年初頭にかけて、日本では「令和のコメ騒動」とも呼ばれるような価格の高騰が起きていました。
農林水産省の統計では、2025年10月の米の平均取引価格(60kgあたり)は37,058円に達し、前年同月から56%も跳ね上がりました。米価としては史上最高水準で、コメ市場は一時パニックに近い状態になりました。

なぜここまで価格が上がったのか。要因はいくつも重なっています。
まず、記録的な猛暑で品質が悪化し、精米したときにとれる白米の量(歩留まり)が減少しました。
同じ玄米量でも商品として出せる白米が少ないため、実質的な供給量が目減りしたのです。
さらに、新型コロナ後のインバウンド需要の回復や、内食・中食の定着もあって、国内外で米の消費が想定以上に増加。にもかかわらず、政府の需給見通しは「人口減=消費減」を前提にしていたため、生産抑制の方向で政策が動いていました。
結果として、在庫は細り、市場では限られたコメを奪い合う状況が生まれたのです。

興味深いのは、この高騰局面と同時に、「いずれ値崩れが来る」というシナリオも、すでに視野に入っている点です。
価格が跳ね上がれば、農家は増産に傾きますし、政府も備蓄や輸入の調整などで供給を厚くしようとします。
実際、2025年産以降は収穫量の回復や在庫積み増しが期待されており、2026年春以降には、過剰供給気味になって価格が急落するリスクが指摘されています。
つまり、短期的には「高すぎる」状態でも、中長期的には「安すぎる」局面が来かねない、極端なブレが起きているのです。

このアップダウンの激しさの背後には、気候変動による不安定な天候、生産調整を前提とした政策判断、輸出入やインバウンドも含めた需要構造の変化、そして「品薄感」に敏感に反応する市場心理が入り組んでいます。
米価の動きは一見不可解ですが、その実、現代日本が抱える構造的な課題を映し出しているともいえます。

こうした米価の乱高下は、私たちの生活にもさまざまな形で及んでいます。

1. 家計への圧迫
お米は多くの家庭で毎日食卓に上がる主食です。
5kgで4,000円超となると、月に10kg以上消費する世帯では、年間で数万円単位の負担増になることもあります。
特に、子どものいる家庭や年金暮らしの世帯では、外食を減らしたり、おかずの品数を減らしたりと、食生活そのものを見直さざるを得ないケースが出てきています。
「主食だからこそ削りにくいのに、確実に効いてくる出費」になっているのです。

2. 外食・給食現場のコスト増
飲食店や弁当チェーン、学校給食など、大量に米を扱う業種ほど打撃は深刻です。
定食屋が「ごはん大盛り無料」をやめ、追加料金制に切り替えたり、丼ものチェーンがひそかに盛りを減らしたりといった「見えにくい値上げ」が進んでいます。
ある自治体では、給食費を据え置くために、おかずの内容や産地のグレードを調整せざるを得ないという声も上がっています。

3. パン・麺類など他の主食への乗り換え
お米が高くなると、一部の家庭ではパンやパスタ、冷凍うどんなど、相対的に値動きの穏やかな主食にシフトする動きが出ます。
実際、スーパーの販売データでも、米価高騰期に麺類やパンの売り上げが伸びたという報告があります。
ただし、こうした「お米離れ」が進みすぎると、今度は米の需要が落ち込み、過剰在庫からの値崩れ、農家の収入悪化という別の問題を生む可能性があります。
短期的な節約行動が、長期の供給体制を不安定にするというジレンマを抱えているのです。

4. 産地経済と農家経営への影響
米どころの地域にとって、米価の上昇は一見プラス要因に見えます。高値で売れる年は、農家の売上も増え、地域にお金が回りやすくなります。
しかし、問題は「その状態が続くのかどうか」が読みにくいことです。
来年は安くなるかもしれない、天候不順で不作になるかもしれない。こうした不確実性が高いと、農機具の更新や貯蔵施設の整備、後継者への世代交代投資など、長期的な判断をためらわせます。
結果として、地域全体の経済基盤が脆くなるリスクもはらんでいます。

このように、お米の価格変動は単なる「今日の特売が安い・高い」の話にとどまりません。
私たちの食卓の安心感、外食や給食のあり方、さらに農村の将来像や食料安全保障といった、社会の根幹に関わる問題と直結しています。
お米の値札を眺めるとき、その裏には気候、政策、国際情勢、そして私たち一人ひとりの選択が絡み合っている―そんな視点を持つと、この「怪現象」も少し違って見えてくるかもしれません。
 

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