エイトビートのドラムは、ロックやポップスの根底を支えるリズムのパターンです。
1小節を八分音符で打ち鳴らすハイハットの均一なリズムに、バスドラムを「1」と「3」、スネアドラムを「2」と「4」に配置することで、シンプルながらも力強いビートを生み出します。
それは、バンドの背骨となり、リスナーの心拍と調和する感覚が非常に魅力的です。
このパターンの基本的な構造は極めて明快です。
・ハイハット:1・2・3・4・(八分音符で均等に)
・キックドラム:「1」と「3」
・スネアドラム:「2」と「4」
この理解しやすい「踏み込む」「返す」のグルーヴは、誰にでも心地よく響く普遍的な感覚を持っています。
エイトビートは1960年代のビートルズやストーンズといったブリティッシュ・ロックで発展し、その後日本のフォークや昭和ポップスにも急速に浸透しました。
例えば、ビートルズの「She Loves You」は八分音符のビートが曲全体を揺らし、「張りのある音」のスネアがドラマチックな推進力を生み出しています。
日本においては、RCサクセションやはっぴいえんどなどがこのパターンを巧みに取り入れ、草の根ロックシーンを支えました。
しかし、ただ八つ打ちするだけでは単調になりがちです。
そこにアクセントやゴーストノートを加えることで、ビートに豊かな表情が生まれます。
・ハイハットの開閉をリズミカルに変える
・スネアの裏で微細なタッチのゴーストノートを加える
・キックのタイミングをわずかに遅らせて「後ノリ」のグルーヴを作り出す
こうした微妙な変化が、リスナーに飽きさせないスパイスとなります。
バンドで演奏する際、エイトビートはベースやギターとの「呼吸」を合わせるための共通の言語になり、ベースが共に刻むことで、低音が豊かになり、ギターやキーボードにスキップする余地を与えます。
ミュージシャン同士の視線やワンフレーズの合図により、ビートの強弱やフィルへの移行を自在にコントロールできることが、このリズムの醍醐味です。
「Smoke on the Water」ディープ・パープル
Smoke on the Water by Deep Purple
初めてディープ・パープルの「Smoke on the Water」を聴いたとき、リフの影で響く八分音符のリズムに思わず心が躍りました。
各八分音符が力強く一歩踏み出すように整然と並んでいて、そのシンプルさがこの曲の核心なる推進力を生み出しています。
ドラムスのイアン・ペイスは、シンバルの開閉を足場に八分音符を叩き続け、ハイハットが小さな波紋を八つ描き、その上でスネアがアクセントを加えています。
こうした8ビートの重なりに加えて、ロジャー・グローヴァーのベースもまた、八分音符のリズムに合わせて地面を這うように動いています。
それぞれの音がリフの背景を支え、音の厚みを強調しつつも、決して目立ちすぎない絶妙なバランスで響き、さらにリッチー・ブラックモアのギターの輝きが聴く者の心を直撃します。
この8ビートが生み出すのは、単なるリズムでは無く、まるで暗闇を照らす光のように安定したビートが不安な心を癒し、同時に次の瞬間に訪れるドラマへの期待を煽ります。
リフとドラム、ベースが一体となった8ビートが重なるたびに、聴く者は自然に呼吸を合わせ、内なる小さな炎が燃え上がるのを感じます。
ライブで観客が拍手を合わせるとき、その手拍子は必ず八分音符に重なります。
一人一人の心臓が同じリズムで共鳴し、会場全体が一つの大きな生き物のように動き出し、まさに「Smoke on the Water」の8ビートは、パフォーマンスをする人と聴衆を繋ぐ見えない架け橋となっています。
この曲の根幹にある八分音符のグルーヴは、50年経った今も色褪せることはありません。
次にギターを手にした時には、メトロノームを八分音符で刻刻ませながら、リフを練習してみて下さい。
そのシンプルさの中にこそ、ロックの原動力と共同体のぬくもりが詰まっています。
「Smoke on the Water:ディープ・パープル」
