ビートルズの「ナット・ア・セカンド・タイム」は、ジョン・レノンによる深い感情に満ちたバラードで、セカンドアルバムの『With the Beatles』に収められた隠れた名作です。
英語では「Not a Second Time」として知られ、1963年にリリースされました。
作詞・作曲はレノン=マッカートニー(実質的にはジョン・レノンによるもの)で、曲は約2分というコンパクトなフォーマットですが、その和声の創意工夫や冷静な歌詞が、独特の余韻を醸し出しています。
この曲の魅力は「歌詞の強い決意」と、それに寄り添う「微妙な和声の変化」にあります。
歌詞は裏切りを経験した語り手が「二度と同じことは許さない」と線を引く内容で、冷静さと感情的な余韻が共存しています。
また、当時のモータウンやスモーキー・ロビンソンへの影響が指摘されており、ソウル的な要素が曲に深みを与えています。
録音面では「ジョージ・マーティンのピアノ」や「ジョンのダブルトラック・ボーカル」が際立ち、シンプルな編成ながら緻密なアレンジが施されています。
スタジオでのテイクの重ね方やモノラル/ステレオの違いはファンの間で話題になるポイントですが、ライブパフォーマンスは少なく、このアルバムトラックとしての静かな存在感が魅力的です。
この曲の詳細と魅力について:レコーディングは、1963年9月11日に行われ、基本トラックを複数回録音した後、オーバーダブを重ねる手法が使われました。
最終的には、テイク5を基にテイク9のオーバーダブが重ねられたテイクが採用されており、この工程が曲の緊張感と完成度を高めています。
サウンドの重要なポイント:この曲のリズムはリンゴのドラムとポールのベースが支え、余白を生かしたアンサンブルが特徴です。
聴き所の一つは「リンゴ・スターのドラミング」で、華やかさはないものの、「曲の呼吸をつくる“間”と小さなフィルイン」で感情の揺れを支えています。
イントロやブリッジで見られる短いドラムのブレークは、同時期の他の曲に見られる特徴が感じられ、曲のテンポ感とジョンのフレーズを巧みに受け止めています。
譜面やタブで見ると、リンゴは「シンプルなスネアとハイハットの組み合わせに、主要な部分でスネア・フィルを挟む」ことで曲のドラマを生み出していることがわかります。
過剰な装飾を避け、歌を前に出す演奏が特徴です。
音楽理論的には終止の使い方がユニークで、「イオリアン(相対短調)に触れるようなコード進行」が曲に独特の余韻を与えています。
このような和声の工夫が、シンプルな演奏をより深く聴かせる要因となっています。
全体として、この曲の魅力は「控えめな表現」と「細部で効く演奏」にあり、リンゴのドラムはその核となり、控えめながら確実に曲の感情を動かす役割を果たしています。
作風と影響:ジョン自身は「スモーキー・ロビンソン風のソウル感」を意識していたと語っており、その影響がメロディーやフレージングに現れています。
音楽評論では、終了部の和声進行が注目され、ポップでありながら一歩踏み込んだ和声感覚が評価されています。
総じて、「ナット・ア・セカンド・タイム」は、短いながらも深い情感と音楽的な野心が同居する一曲です。
精緻な録音技術、控えめながら効果的な演奏、そしてジョンの毅然とした歌詞が組み合わさり、ビートルズの初期作品の中で、作曲における成熟やポップとクラシック的和声の接点を感じたいときにぜひ聞いてみるべき楽曲です。
「Not A Second Time/ナット・ア・セカンド・タイム」The Beatles(YouTube)
「Not A Second Time/ナット・ア・セカンド・タイム:The Beatles」