日本が「ここまで低所得化した理由」

日々是好日

日本が「ここまで貧しく感じられる国」になった本当の理由

いまの日本について「なんとなく生活が苦しくなった」「昔ほど豊かさを感じない」と口にする人が増えました。
しかし、その理由は「給料が上がらない」だけでは説明しきれません。
30年以上かけて少しずつ進んだ環境の変化・制度の歪み・価値観の固定化が積み重なり、その結果として、私たちの手取り収入や暮らしの余裕が目に見えて薄れてきた、というのが実態に近いでしょう。

1. 給料が伸びないのは「企業努力不足」ではなく構造の問題
日本の平均賃金は、1990年代後半をピークにほぼ横ばいのままです。
かつてはOECD諸国の中でも上位にいた日本ですが、いまや韓国に追い抜かれ、多くの先進国との差も広がりました。
「企業がもっと頑張れば給料を上げられるはずだ」と言いたくなるところですが、現場の声は少し違います。
・売上は維持か微増なのに、原材料費・エネルギー費は上昇
・大企業からの下請け単価はなかなか上がらない
・「価格を上げるとお客さんが離れる」という恐怖感が根強い

その結果、「利益が出ないから賃金に回せない」という状態に陥りやすくなりました。
つまり、賃金が上がらないのは、経営者の怠慢というより、「価格をきちんと引き上げられない仕組み」が長く放置されてきたことによるものです。
加えて、非正規雇用の拡大も平均所得を押し下げました。
同じ仕事でも、正社員と非正規では待遇が大きく違うという「二重構造」が、個人の稼ぐ力を制限し続けてきたのです。

2. 「安いこと」が当たり前になり、誰も価格にお金を払わなくなった
日本社会では、「安さ」があまりにも強い価値として浸透してきました。
100円ショップや格安チェーン店、低価格サービスが日常を支配し、「高いものを選ぶ理由」を説明しにくい社会になっています。
その裏で起きているのは、次のような連鎖です。
・激しい値下げ競争で、企業が利益を確保しにくくなる
・利益が出ないため、従業員の賃金や投資に回せない
・所得が増えないから、消費者はさらに「安さ」を求めるようになる

この悪循環が長期化すると、企業は「新しい価値を生む挑戦」よりも「コスト削減」ばかりに追われます。
品質向上や技術開発、サービス改善に投資する余力が削られ、結果として国全体の競争力も少しずつ痩せていきます。
つまり、日本は「安くてそこそこ良いもの」は得意になった一方で、「高くても欲しいと思わせる商品・サービス」を育てる力を弱めてしまった、とも言えます。

3. 人口減少と地方の衰えが、国全体のパワーを削っている
人口が減ると、市場規模が縮小し、地域の経済活動は弱くなります。
特に地方では、若者が都市圏へ流出し、高齢者だけが残る「縮む街」が増えました。
その結果として、
・商店街や中小企業が次々と廃業し、働く場が減る
・人手不足で、残った企業も新たな事業に踏み出せない
・地域でお金が回らず、サービスも選択肢も減っていく

こうして、地方では「仕事が少ない → 所得が低い → 若者が出ていく → さらに仕事が減る」というスパイラルが止まらなくなっています。
都市部に目を向けても、少子化で労働人口は減っています。
人が減る一方で社会保障の負担は増え、中間層が可処分所得の目減りを実感するようになりました。
「働いても手元に残るお金が少ない」という感覚は、ここからも来ています。

4. 貯金大国なのに「お金が育たない」仕組み
日本人は世界的に見ても貯金好きです。
しかし、長期的な超低金利政策のもと、銀行にお金を預けていてもほとんど増えませんでした。
むしろ、物価がじわじわ上がれば、実質的な価値は目減りしていきます。
一方で、アメリカや欧州の一部では、株式や投資信託、不動産などに資金が回り、経済成長や企業の利益が個人の資産にもつながりやすい構造があります。
日本でも近年NISAなどの制度が整いつつありますが、長年の「投資は危険」「貯金が一番安心」という意識は根強く、資産形成の面で大きな差がついてしまいました。
企業側から見ても、株主が成長を求めて投資する文化が弱かったため、「世界で勝つための大胆な投資」が行われにくかった、という側面もあります。
その結果、日本経済全体としての成長力が鈍り、一人あたりの所得にも跳ね返ってきました。

5. 成長分野で出遅れた結果、高収入の「新しい仕事」が生まれにくくなった
1990年代、日本は世界でも有数の技術立国でした。
家電、車、精密機器など、多くの産業で日本企業が存在感を示していました。
ところが、IT革命とデジタル化の波に十分に乗り切れなかったことで、次のような分野の主役は海外企業になりました。
・スマートフォンやモバイルOS
・SNSや動画配信プラットフォーム
・クラウドサービスや検索エンジン
・プラットフォーム型ビジネス全般

こうした分野では、世界規模で稼ぐ企業が次々と誕生し、高収入の雇用も大量に生まれています。
しかし、日本企業がその中心にいないため、「世界標準の高給エンジニア職」や「グローバルに稼ぐプロフェッショナル職」が国内に広く根付くのに時間がかかりました。
伸びる産業の中心にいないということは、国としての「稼ぐ力」が弱くなるということでもあります。
その影響は、ボーナスや昇給、雇用の安定性、といった形で、私たちの生活に直接降りかかっています。

6. 「変わりたいのに変われない」文化と制度
日本には、世界的に見てもユニークな雇用慣行があります。
・終身雇用や長期雇用を前提とした会社選び
・年功序列型の給与体系
・転職や副業への心理的なハードル
・「失敗を避けること」が評価される組織文化

これらは、かつて高度経済成長期には、大きな安心感と安定をもたらしました。
しかし、変化のスピードが速い現代では、次のような弊害も目立ち始めています。
・新しい技術やビジネスモデルへの対応が遅れる
・若い世代のアイデアやスキルが十分に活かされない
・社員が「とりあえず今の会社にしがみつく」選択をしがちになる

本来であれば、スキルを磨き、より稼げる分野や成長企業に人材が流れていくことで、個人の所得は上がりやすくなります。
ところが、日本では「転職すれば収入が下がるかもしれない」「安定が失われるかもしれない」という不安から、動き出せない人が多いままです。
その結果、社会全体としての「人材の新陳代謝」が進まず、イノベーションの芽が育ちにくくなっています。

まとめ:ゆっくりと進んだ変化の積み重ねが、いまの「低所得感」をつくった
日本の低所得化は、特定の誰かが失敗したから起きたわけではありません。
賃金が伸びない仕組み、「安さ」を優先しすぎる価値観、人口減少と地方の衰退、投資文化の未成熟、成長産業での出遅れ、変化をためらう制度と文化―。
これらが30年という長い時間をかけて少しずつ積み重なり、その結果として、私たちは「昔より豊かさを感じにくい社会」に立っているのだと言えます。

ただし、これは悲観一色の話ではありません。
日本には、世界に評価される技術やコンテンツ、地域に根ざした文化や食、きめ細やかなサービスなど、多くの強みが残されています。
重要なのは、それらを古い枠組みの中に閉じ込めるのではなく、デジタルや観光、グローバル市場などと結びつけ、新しい形で価値を生み出していくことです。

「なぜここまで低所得化したのか」を冷静に見つめることは、
これからどうすれば、もう一度豊かさを実感できる社会に変えていけるのか」を考える出発点でもあります。
 

関連記事

デジイチ写真

TOP
CLOSE