渡辺香津美のマーメイドブルーバード

音楽事象

マーメイドブルーバード/Mermaid Boulevard」渡辺香津美
Mermaid Boulevard by Kazumi Watanabe
 
渡辺香津美が1978年にリリースしたアルバム「Mermaid Boulevard」は、渡辺を中心に編成されたバンド「Kazumi & The Gentle Thoughts」による作品で、ジャズ・フュージョンと洗練されたサウンドが融合した一枚です。

ギターには渡辺香津美とリー・リトナーが参加し、リトナーはリズムのアレンジや楽曲提供で重要な役割を担っています。
リズムセクションは名手たちで構成され、ベースにはアンソニー・ジャクソン、ドラムにハーヴィー・メイソンが参加し、管楽器としてアーニー・ワッツのテナーおよびフルートが曲に色合いを加え、キーボードにはパトリース・ラッシェン、シンセ・ストリングスのアレンジに深町純が関わっています。
バック・ボーカルには吉田美奈子が加わり、プロデュースは宮澤俊介、エグゼクティブ・プロデューサーには村井邦彦が名を連ねており、国内外の豪華な制作陣が集結しています。

タイトル曲「Mermaid Boulevard」は、渡辺のリリカルなギター演奏とアンサンブルの空間が見どころとなる長尺のナンバーで、海を思わせる広がりと都市的な緊張感が同時に存在する音像が特徴的です。
「Sugar Loaf Express」はリー・リトナーの作品で、ファンキーかつ上品なフュージョンのドライブ感が際立ち、リトナーのリズム感と渡辺の語りかけるフレーズが共鳴する瞬間が聴きどころです。

「Gentle Afternoon」は、短めの曲に圧縮された穏やかさと緻密な間が共存し、柔らかなメロディーがギターの繊細なタッチで編まれ、楽曲全体を支えるリズムの呼吸が「午後の気配」を決定づけています。
ドラムのハーヴィー・メイソンの演奏はこの楽曲の要で、スネアとタムの微妙な温度感、ハイハットの絶妙なオープン具合、さらにはブラシとスティックの使い分けが、渡辺のギターに寄り添いながらも明確な推進力を与えています。
彼は派手なフィルインで目立つのではなく、空間を描くためのリズムのバリエーションを選び、楽曲の穏やかな時間の流れを拡張する役割を果たしています。

ドラムの間の取り方に耳をすますと、ハーヴィーがどの瞬間に「余白」を残し、どのタイミングで一音で色を変えているかが見えてきます。
ギターとドラムの会話では、渡辺のメロディックなフレーズに対してハーヴィーがリズムを変える瞬間があり、その一拍の強弱が楽曲の感情を左右します。
この曲をヘッドフォンで聴くことで、キックの沈みとスネアのシェルの柔らかさが浮き彫りになり、ハーヴィーの「音の選択」がより際立ちます。

同様にタイトル曲をヘッドフォンで聴きながら各楽器の位置とニュアンスを確認し、次に「Sugar Loaf Express」や「Neptune」のソロ・パートに注目して繰り返し聴くことで、参加ミュージシャン同士の相互作用がさらに明確に感じ取れます。

このアルバムは1977年10月に東京・芝浦スタジオAで録音され、ストリングスやシンセの配置、リズムのアレンジが際立っており、リトナーのリズム・アレンジと深町純のストリングス/シンセ・アレンジが、渡辺のギターを現代的にサポートしつつ曲の情景を高めている点が制作の大きな特徴です。
国際的なプレイヤーと日本の名手がひとつの作品で息を合わせた点がこのアルバムの核であり、技巧を見せる以上に「曲の情緒」を重視した演奏姿勢が心に残り、フュージョンやジャズ・ファンクのファンだけでなく、演奏の細部やアレンジの工夫を楽しみたいリスナーにも新たな発見が多いと思います。
 
マーメイドブルーバード/Mermaid Boulevard:渡辺香津美
 

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