前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
承継とは何かを引き継ぐことです。
法律上の承継には、包括承継と特定承継の二つがあります。
この内、ここでは関係のない包括承継とは個人の場合には相続、法人の場合には合併等により引き継ぐことを言います。
包括承継の特徴は、承継されるものや権利に関することがごっそり、全部、承継人に引き継がれることです。
一方で契約(売買)等により権利を手に入れることを特定承継と言います。
特定承継は、自分の欲しいものだけを手に入れているはずなので、全てを引き受けることになっていません。
嫌な想像で恐縮ですが、手に入れた中古車が事故を起こしていた車だったとしましょう(見た目はすっかり綺麗になっていてわかりませんでした)。
その事故で賠償をする相手にまだ賠償が終わっていないとします。
相続で取得した場合、つまり包括承継の場合には、車を手に入れるとともに、賠償を負担することになり、賠償金を支払わなくてはなりません。
一方で、売買で購入した場合、つまりは特定承継の場合には、車を手に入れるだけ、です。事故のことなど自分には関係のないこと、のはずです。
これが区分所有の場合には、特定承継であっても、区分所有法により先取特権の対象となる債務は承継し、負担することになります。
端的には、管理費の未払いがあると購入した人が支払わないといけません。
なお、包括承継の場合には、区分所有法に規定がされているわけではないものの、当然に、承継されることになります。
区分所有の領域では、「特定承継人」というのは、元の所有者から区分所有に関連する一部の権利や義務を個別に引き継いだ者を指します。売買や贈与、強制執行や請求の履行などで区分所有の一部が移動すると、その受け手は特定承継人として認識され、一定の債務について請求や履行の対象となることがあるのです。
具体的には、管理規約や総会の決議に基づいて発生する管理費や修繕積立金の負担、共用部分に関する責任について特定承継人に請求できる可能性がある点が重要です。
売買によって所有権を取得した第三者や、代位弁済や担保の実行により区分所有権を手に入れた者も、判例によっては特定承継人と認識され、元の所有者が抱えていた義務の一部を引き受けると判断されることがあるのです。
特に問題になりやすいのは「管理費等の負担」です。
管理組合が維持管理のために資金を回収する必要性が高いこと、管理費などを優先的に確保するための制度的根拠が存在するために、購入者が事前に知らなかった金額であっても、特定承継人として管理費負担義務を負うことになる事例が増加しています。
結局、区分所有資産を取得する前に管理規約や過去の管理費の滞納状況、特別な分担ルールについて確認しておくことが、後に「自分が特定承継人としてどこまで責任を負うのか」を誤解しないための最も現実的な防御策となります。