ゲイリー・ムーアの「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」

音楽事象

スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」ゲイリー・ムーア
Still Got the Blues by Gary Moore
 
ゲイリー・ムーアの「Still Got the Blues」は1990年にリリースされたアルバムのタイトルトラックで、ムーアがロックベースのキャリアから真のブルース表現へと戻る象徴的な楽曲です。
この楽曲はアルバム全体を代表する「泣き」を強調したメロディとギター表現により、多くのリスナーにムーアの深い感情を最も的確に伝える一曲となっています。

ムーアの泣きのトーンは、主に所持しているギターの種類と演奏方法によって生み出されています。
レコーディングに使われた主要なギターには1959年のレスポール・スタンダードがあり、このギターのリッチで温かみのある中低域が「声のような」ミッドレンジを生み出しています。
さらに、弦に対するアタックの仕方、ビブラートの速度と幅、ピッキング後の指の残し方が、シングルノートの伸びや悲しみを際立たせています。

アンプやエフェクトのセッティングも不可欠です。
クリーンとクランチの間を巧みに操る柔らかなドライブ感と、軽く施されたリバーブやスプリングエコーが音質を丸くし、音が「泣く」ための余地を与えています。
音量のダイナミクスを細やかにコントロールすることで、フレーズの終わりには余韻が漂い、聴く人の胸を締め付ける感動的な瞬間が生まれます。

ムーアのフレーズ作りはブルースの文法に則りながらも、ロックの力強さと歌心を兼ね備えています。
短いフレーズの繰り返し、ブルーノートの微妙な押し引き、音程をわずかにずらすスライドやチョーキングが、言葉にし難い感情を鮮明に表現します。
特にビブラートは情緒の温度を決定づける重要な手段で、速さと深さを瞬時に変えることで「嘆き」や「哀愁」を巧みに操ります。

また、間の取り方が大きな魅力の一つです。音を詰め込み過ぎずに、フレーズとフレーズの間に呼吸を持たせることで、メロディの一音一音が物語を語るように響きます。
バックのアレンジがむやみに派手でないため、ギターの「声」が際立ち、聴き手はその声の微妙な表情に集中できます。

聴きどころと余韻(おすすめの聴き方)
・曲の出だしから中盤にかけてのソロは、フレーズごとに表情が異なるため、同じ部分を繰り返し聴くことで違いが明確になります。
・ビブラートやチョーキングで特に感情が高まる瞬間を見つけ、そこだけヘッドフォンで拡大して聴くと「泣き」の本質がさらに明確になります。
・歌とギターの掛け合いに目を向けると、ムーアがどのようにギターを「歌わせて」いるかがより一層響いてきます。
 
「Still Got the Blues」は技術的な巧みさと素朴な感情表現が融合した名曲であり、ギターのトーン、フレージング、間の取り方がすべて有機的に結びつき、聴き手の心に長く残る余韻を生み出しています。
ぜひ静かな時間に一度、演奏の細部に耳を傾けてみてください。

スティル・ゴット・ザ・ブルーズ:ゲイリー・ムーア
 

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