ドラムのシックスティーン・ビートを探求してみる【3】

ドラム趣向
シックスティーン・ビートの概要

シックスティーンビートは、ドラムの演奏において最も多用途で、様々な音楽ジャンルで利用されるリズムの一つです。
4分音符を基にし、その間を4つに分割した16分音符で刻まれることから「シックスティーン(16)」という名称が付けられています。
ポピュラー音楽やロック、ファンク、ポップ、R&B、ジャズ・フュージョンなど、数多くのシーンで聞こえる心地よいバイブレーションと前進するエネルギーを生み出します。

一般的な手法では、ハイハットやライドで16分音符を一定に打ち、スネアは2拍目と4拍目に強調を置き、バスドラムがビートの基盤を支えます。この組み合わせによって「進む力」と「緊密さ」を生み出し、楽曲のグルーヴ感を明確に示す役割を果たします。
ハイハットは単なる刻みにとどまらず、オープンやシンコペーションを加えることで表情が豊かになり、スネアではゴーストノートと呼ばれる小さな音を織り交ぜることでスウィング感やファンクネスを演出できます。

シックスティーンビートのバリエーションは実に様々です。バスドラムの配置を変えるだけでビートの中心が変わり、よりダンスしやすくなったり、ロック寄りの重みが出たりします。
例えば、バスを「1拍目と3拍目」に置くと安定したロック感のあるグルーヴになり、「1拍目+裏の16分」や「付点リズム」を取り入れることでファンクやR&B寄りのノリになります。
スネアにリムショットを用いるかどうか、ハイハットの扱いをクローズあるいは少し開けるかといった微細な選択が、楽曲の独自性を決定づけます。

演奏技術としては、タイムキープの安定、ダイナミクスの制御、左右の手足の独立性を育てることが欠かせません。
メトロノームでの繰り返し練習は基本ですが、テンポを変えたり、ハーフタイムで同じパターンを試したりすることで応用力が向上します。
ゴーストノートやアクセントの位置を緻密に調整することで、シックスティーンという枠組みの中でも無限の表現が可能になります。

音楽的な文脈において、シックスティーンビートはメロディーやベースラインと密接に結びついているため、他の楽器との相互作用を重視することが不可欠です。
ベーシストと連携して低音の「溜め」を作り出すことでビートに深みが増し、ヴォーカルのフレーズに合わせてハイハットの開閉やスネアの強弱を調整することで歌を際立たせることができます。
ライブでは微妙なずらしや強調が聴衆にダイレクトに影響するため、細部のコントロールが演奏の説得力を左右します。

シックスティーンビートは学びやすく、その活用も容易ですが、深掘りすることで限りない可能性が開かれます。
基本を習得した後、ジャンルの名曲をトレースしたり、自作のフレーズを録音して客観的に振り返ったりすることで、より自己のスタイルにあったグルーヴを探求できます。
シンプルさゆえに表現の幅が広く、ドラムプレイヤーとしての個性を最も強く反映するリズムの一つと言えるでしょう。

 

シックスティーン・ビートの名曲

101・イーストバウンド」フォープレイ
101 Eastbound by Fourplay

Fourplayの「101 Eastbound」は1991年に発表された同名のデビューアルバムに収められた楽曲で、主導するメロディーと緻密に構築されたリズムが同時に心に残る現代ジャズの象徴的な一曲です。

ハーヴィー・メイソンはこの曲で、16分音符の緻密な刻みを基にしつつ、一切窮屈に感じさせない見事なグルーヴを創出しています。
ハイハットやライドの軽やかな16分音符の連続で楽曲を推進し、キックとスネアの配置によってフレーズ毎の雰囲気を変貌させ、ギターやキーボードのソロが自由に歌うことができる基盤を築いています。

メイソンのスティック技術は硬さと柔らかさの絶妙なバランスを持ち、ハイハットの刻みは目立つことなく「網状」のグルーヴを形成します。スネアは裏拍で柔和に踏み込み、クラッシュやライドの選択によってフレーズの最高潮を華やかに強調します。
その結果、16ビートは単なるリズムではなく、「色彩豊かな時間の流れ」として作用します。

Fourplayの編成は各演奏者の卓越した技量を前提にしているため、ドラムの16分音符は楽曲全体の縫合のような役割を果たします。
メロディーが前面に出る際には刻みを控えめにして余白を確保し、インタープレイが活発になるソロでは16分音符の密度を微調整しながら推進力と間合いを操ります。
これらの緻密な相互作用がFourplayの演奏スタイルの根幹を形成しています。

「101 Eastbound」の魅力は、名手たちが生み出す「空白の美学」と、それを支えるメイソンの16ビートの安定感にあります。
正確さと余裕が共存するドラムがあるからこそ、ギターやキーボードの一音一音が生き生きと際立ち、聴く者は都会の夜のドライブや長距離の旅路を思い浮かべることができる訳です。

 
101 Eastbound:Fourplay/フォープレイ
 

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