プロコル・ハルム「青い影」

音楽事象

『青い影(A Whiter Shade of Pale)』は、プロコル・ハルムが1967年に世に送り出したデビュー・シングルでありながら、バンドの枠や時代を超えて「ロック史の特異点」とも言うべき存在になった楽曲です。
発売と同時にチャートを駆け上がり、イギリスでは6週連続1位、世界では累計1000万枚以上を売り上げる空前の成功を収めましたが、その評価は数字にとどまりません。
現在に至るまで、多くのミュージシャンやリスナーにとって「特別な一曲」として語り継がれています。

この曲の核となっているのは、やはりあの荘厳なオルガン・サウンドでしょう。
教会音楽を思わせるバロック風のイントロは、ロックというよりも一種の宗教的儀式の始まりのようで、聴いた瞬間から空気が変わります。
バッハの『G線上のアリア』や『幻想曲とフーガ ト短調 BWV542』に通じる和声感と旋律ラインが取り入れられており、当時のポップ・ミュージックとしてはきわめて異質かつ大胆な試みでした。
クラシックの厳かな響きとロックバンドのサウンドが同じ器の中で溶け合うことで、夢とも現実ともつかない、不思議な浮遊感が生まれています。

しかし、『青い影』の魔術はオルガンだけで成立しているわけではありません。
ドラマー、B.J.ウィルソンの存在が、その幻想的な世界を下から支える“見えない主役”と言ってよいでしょう。
彼が多用する三連符のパターンは、単なるテクニックではなく、楽曲全体の情緒を決定づける重要な要素です。
一般的なロックが直線的なビートで推進力を生み出すのに対し、ウィルソンのドラムは波が寄せては返すように「たゆたう」リズムを描き出します。
この柔らかなうねりが、オルガンの重厚なフレーズと絡み合い、聴く者の時間感覚をゆっくりと溶かしていくのです。

さらに彼のドラミングは「叩きまくる」タイプとは正反対で、あくまで歌とサウンドの「間」を聴きながら組み立てられています。
スネアやシンバルを必要以上に鳴らさず、要所でだけアクセントを置くことで、抑制のきいたドラマ性を生み出しているのが特徴です。
サビに向かって徐々に三連符の熱量を高めていきながらも、決して自分だけが前に出ようとはしないその態度にこそ、クラシック音楽的な構成感覚と、ジャズのような即興的な呼吸が同居しているのがわかります。
当時のロック・ドラマー像から見れば、かなり異色のアプローチだったと言えるでしょう。

一方で、楽曲の印象を決定づけている大きな要因が、謎めいた歌詞の世界です。
『青い影』の歌詞は物語としての筋がはっきりしているわけではなく、断片的なイメージや象徴的なフレーズが連なっているため、聴く人ごとに解釈が分かれます。
「粉ひきが物語を語るうちに、彼女の顔は亡霊めいて青ざめていった(And so it was that later, as the miller told his tale, that her face, at first just ghostly, turned a whiter shade of pale)」という一節は、恋の終焉を描いた失恋の歌として読むことも、人生そのものの儚さや、若さが過ぎ去っていく瞬間を象徴した一行と受け取ることもできます。
意味が一つに定まらないからこそ、聴き手それぞれの人生経験を投影できる、余白の大きい詩になっているのです。

その抽象的な言葉に息吹を与えているのが、ゲイリー・ブルッカーのボーカルです。
張り上げるでもなく囁くでもなく、中間のかすれたところで鳴っているような独特の声質は、どこか遠くの霧の向こうから届いてくるような印象を与えます。
彼の歌い回しは過度な装飾を排し、感情をむき出しにするのではなく、抑えたトーンの中でじわりと哀愁をにじませていくスタイルです。
そのため、聴き進めるうちに、ふと胸の奥に残っていた記憶や感情が静かに揺さぶられていくような感覚を覚えます。

こうした要素が重なり合うことで、『青い影』は単なる60年代のヒットソングという範疇を完全に超えた作品になっています。
クラシックとロックの融合、リズムの微妙な呼吸、意味を断定させない詩的な歌詞、そして聴く者の心に直接語りかけるボーカル。
それぞれが独立して魅力を放ちながらも、最終的には一枚の絵画のように一体となり、聴く人の心に深い陰影を刻み込むのです。
『青い影』は、まさに音そのものが詩となった楽曲であり、時代を越えて聴かれ続ける理由も、そこにあると言えるでしょう。
 
青い影/A Whiter Shade of Pale」プロコル・ハルム/Procol Harum(YouTube)
 
青い影/A Whiter Shade of Pale:プロコル・ハルム/Procol Harum
 

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