Fourplay/フォープレイの代表曲「101 Eastbound」。
2005年1月16日、韓国で行われたライブ映像を観ると、この1曲が単なるレパートリーではなく、“バンドそのものを象徴する物語”として鳴っているのが伝わってきます。
ステージに立つ4人が、それぞれ別の人生を歩んできたのに、音を出した瞬間、同じ景色を共有している——そんな不思議な一体感があるんです。
このパフォーマンスで、最初に世界観を提示するのがボブ・ジェームス(Bob James)のキーボード。
イントロのエレピは、音量的には決して大きくないのに、演奏の“温度”を一瞬で決めてしまう力を持っています。
指先が鍵盤に触れる度に、和音のニュアンスがじわっと広がって、まだ何も始まっていないようでいて、すでに旅路の地図が描かれはじめている。朝一番、静かな街を歩き出すときの、あのひそやかな高揚感に近いものがあります。
彼のコード・ヴォイシングは、難解さを誇示するようなジャズ的複雑さではなく、「耳にすっと入るのに、よく聴くと深い」という絶妙なバランス。そのタッチが、バンド全体の音をやわらかく包み込み、演奏の“土台の空気”を作り出しているように感じられます。
そこに、ハーヴィー・メイソン(Harvey Mason)のドラムが呼応してきます。
メイソンのビートは、“カウントを刻む役割”を超えて、時間そのものの流れ方をコントロールしているようです。
表拍と裏拍の間にある、ほんのわずかな“溜め”や“抜き”によって、曲が前に進んだり、ふっと立ち止まったりする。その微妙なニュアンスがあるからこそ、聴き手の身体は自然と揺れ始めます。
中盤のドラム・ソロでは、テクニックを誇示するよりも「どこまで“間”で語れるか」を試しているかのようで、音を出さない数秒すら音楽になっているのが印象的です。
残響や、他のメンバーの反応までも含めて、ひとつのフレーズになっているんですね。
ギターを担当するラリー・カールトン(Larry Carlton)は、このライブで“語り手”の役割を担っていると言っていいでしょう。
彼のサウンドは、歪ませすぎない、芯のある甘さが特徴で、クリーントーンに近い質感の中に、ブルース由来のニュアンスがしっかり息づいています。
メロディの入り方がいつも自然で、無理に目立とうとしないのに、気づけば耳がラリーのフレーズを追いかけています。
ソロでは、スケールをなぞるだけのフレーズではなく、“歌うこと”を前提としたラインが中心。ロングトーンの伸ばし方や、ほんの一瞬のビブラートのかけ方に、彼自身の人生観や感情が滲み出ているようで、夕方から夜へと移ろう空の色を眺めているような感覚になります。
一方、ネイザン・イースト(Nathan East)のベースは、縁の下の力持ちであると同時に、このバンドの“心臓の鼓動”そのもの。
低音域でしっかりとグルーヴを支えながらも、要所要所で見せるフィルインやスライドが、曲に表情を与えています。ルートをただ追うのではなく、和音の中を滑らかに行き来しながら、「今、この瞬間、バンドがどこに向かおうとしているか」を示す矢印のような役割も果たしていなす。
さらに彼のスキャット・ヴォーカルが重なると、ベースと声がユニゾンやハーモニーを作り、音楽が二次元から三次元に広がったような立体感が生まれます。楽器と声の境目が溶けていくあの感覚は、Fourplayならではの醍醐味ですね。
この日の「101 Eastbound」が特別に感じられるのは、4人それぞれのソロやフレーズが“自分勝手な主張”ではなく、“会話のキャッチボール”として成立しているところです。
誰かがアイデアを投げれば、別の誰かが違う角度から受け取り、そこにさらに別の色を足して返す―その繰り返しで、曲の表情が少しずつ変化していく。譜面には書き込めない「今ここでしか生まれない瞬間」が、次々と連なっていくんです。
客席からの反応も、ただの拍手ではなく、その会話に参加しているような一体感があって、ステージとフロアの境界線がどんどん曖昧になっていくのが伝わってきます。
Fourplayは1991年に結成されたアメリカのスムース・ジャズ・グループで、ジャズ、R&B、ポップスの要素を溶け合わせたサウンドで知られていますが、単なる“聴きやすいジャズ”にとどまらず、「プレイヤー同士の対話」を前面に押し出したスタイルが特徴です。
オリジナルメンバーは、キーボードのボブ・ジェームス、ギターのリー・リトナー(Lee Ritenour)、ベースのネイザン・イースト、ドラムのハーヴィー・メイソン。
1997年にはリー・リトナーが離脱し、ラリー・カールトンが加入。その後2010年にはチャック・ローブ(Chuck Loeb)がギタリストとして加わるなど、メンバー構成は変わりながらも、「Fourplayらしい洗練されたサウンド」は常に受け継がれてきました。
ギタリストが変わるたびに色合いも少しずつ変化し、バンドとしての“進化の記録”がディスコグラフィーに刻まれているとも言えます。
デビュー作『Fourplay』(1991年)は、ジャズ・チャートでの成功をきっかけに世界的な注目を集め、その後も『Between the Sheets』『Elixir』『Heartfelt』といった作品を通して、スタジオワークとライブ・パフォーマンスの両面で洗練を重ねてきました。
アルバムを通して聴くと、作り込まれたサウンドの美しさが際立ちますが、ライブではそこに“遊び”や“揺らぎ”が加わり、曲ごとに別バージョンの物語が展開されていきます。
Fourplayの音楽がユニークなのは、“心地よさ”と“深みに潜る感覚”が同時に味わえるところです。
BGMとして流していても邪魔にならない滑らかさがありつつ、演奏に意識を向けると、リズムの置き方、コードの選択、音の隙間の使い方など、じっくり味わえる要素が無数に埋め込まれています。
ジャズにあまり馴染みのない人でもすんなり入っていける入り口の広さがあり、長年ジャズを聴いてきたリスナーでも、「あ、ここでこう来るのか」と何度でも新しい発見がある懐の深さも持っています。
2005年の韓国公演での「101 Eastbound」は、そのFourplayというバンドの魅力―プレイヤーの個性、曲そのものの良さ、そして“その場で生まれる音楽の会話”が凝縮されたような演奏と言えるでしょう。
何度聴いても、同じ場所に戻ってくるというより、同じ曲を通して新しい風景に連れて行かれるような、不思議な“音の旅”を味わわせてくれます。
「101 eastbound」Fourplay/フォープレイ(YouTube)20050116 performance in Korea
「101 eastbound:Fourplay/フォープレイ」