第二十八条(委任の規定の準用)

(区分所有法)第一章 建物の区分所有
【第二十八条】

この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

 

解 説

管理者の権利義務については、区分所有法26条で定められています。大雑把に振り返ると、管理者は保存行為のほか、集会の決議、規約によってできること、すべきことの範囲が決まります。
この保存行為、集会の決議、規約のいずれにおいても決められていないことは、民法の委任に関するルールを適用します、というのが区分所有法28条の規定になります。
 
まず民法でいう委任とは何か。一言で言えば、誰かに何かを、自分の代わりにやってもらえるようにお願いすることです。
委任状を提出されたり、見かけられたりしたことがあれば、あれが委任になるのですが、その委任状では何かを誰か(議長とか)にお願いしている内容になっているかと思います。子供に小銭を渡して買い物いいってもらう、というのも法律的に評価すれば委任になります。
管理者は、マンションなどの管理を依頼されている、ということで、違和感のあるような内容ではないと思います。
 
民法の委任の規定にはおおまか、以下のような事柄が含まれます。
まず誰かにお願いして、相手が引き受けてくれると委任関係が成立します。引き受けた方(受任者といいます)は、状況を依頼した方(委任者と言います)から求められれば報告する必要がありますし、依頼されたことが全て終わったときにも報告する必要があります。依頼されたことをする過程で何かを受け取ったら委任者に渡す必要がある一方、依頼されたことをするために費用がかかれば委任者に請求することができます。そして、委任は、委任者の死亡のほか、破産や成年後見開始等、委任者自身の財産を自由に処分できなくなると途中であっても、終了します。

 

POINT

区分所有法28条が意味するもの
マンションの理事・管理者に「民法の委任ルール」を当てはめる理由

区分所有法28条は、一言でいえば
マンション管理組合の理事や管理者がどう振る舞うべきかについて、民法の“委任”のルールをそのまま使います
と宣言している条文です。
条文自体は短く地味ですが、「理事の責任はどこまでか」「何をどこまで説明すべきか」といった、現場で頻繁に問題になるポイントの土台になっています。

なぜわざわざ「委任」を持ち出すのか
管理組合の理事・管理者は、組合員から選ばれ、共用部分の維持修繕、管理会社との契約、長期修繕計画の検討など、管理組合の“顔”として多くの仕事を担います。
ところが、区分所有法だけでは、
・理事はどの程度まで注意して仕事をしなければならないのか
・組合員への説明はどこまで求められるのか
・もし失敗したら、どこまで責任を負うのか

といった「具体的な行動基準」までは細かく書ききれていません。
そこで立法上の工夫として、
・理事・管理者の地位を「民法上の受任者」に近いものとして捉える
・民法の“委任契約”に関するルールを、そのまま理事・管理者にかぶせる

という方法を採用しているのが28条です。
つまり、
理事として選ばれる=管理組合から“委任”を受ける
と考えることで、民法上すでに用意されている詳細なルールを利用できるようにしているわけです。

民法の「委任ルール」で重要なポイント
区分所有法28条によって準用される民法の委任規定から、実務上特に重要なのは次の点です。
1. 善管注意義務(善良な管理者の注意義務)
理事・管理者は、
「普通の人が自分のことを処理するよりも、ワンランク高い注意レベル」で職務を遂行しなければなりません。
・管理費の扱い
・長期修繕の見通し
・重要な契約の締結 など
は、単なる“素人の感覚”では済まされないこともあります。
ただし、裁判例では「専門家レベルの高度な知識まで常に要求されるわけではない」とされる傾向もあり、
「無償の理事として、通常期待される範囲の注意を尽くしたか」がポイントになります。

2. 忠実義務(組合の利益のために行動する義務)
受任者は、委任者の利益のために働かなければなりません。
マンション管理に置き換えると、
・理事は「組合全体の利益」を第一に考える
・一部の住戸・特定のグループの便宜だけを優先してはならない
・自分や身内が得をするような決定をしてはならない
ということになります。
例えば、
理事が自分の親族の工事会社にだけ有利な条件で発注する、
自分の住戸だけ得をするようなルール改正を主導する、
といった行為は、忠実義務違反になり得ます。

3. 報告義務(説明・情報提供の義務)
委任を受けた者は、仕事の経過や結果を委任者に報告する必要があります。
管理組合の場合、
・理事会が総会で活動報告・会計報告を行う
・大きなトラブルや変更事項があれば組合員に周知する
・管理会社との契約内容や見積もりの候補を説明する
といった形で現れます。
この「説明義務」があるからこそ、
理事会が一部の人だけで物事を決めてしまうことを防ぐ仕組みにもなります。

4. 受任者の責任(損害賠償責任)
理事や管理者が、上記の義務を尽くさなかった結果として組合に損害を与えた場合、
民法のルールに基づき、損害賠償責任を問われる可能性があります。
【例】
・明らかに不自然な高額見積もりを十分な検討もせずに承認し、大きな損害が出た
・管理費の使途を適切にチェックせず、横領を見逃し続けた

もっとも、ほとんどの理事は無償で就任しており、「職業としての取締役」とは立場が異なります。
そのため実務では、
・無償の理事として、一般的に期待される注意を尽くしたか
・当時の情報で、違法・不当と気付けたか

といった点が考慮され、「過度に重い責任までは負わせない」というバランスがとられています。

区分所有法28条によって得られる効果
28条があることで、管理組合の運営には次のようなメリットが生まれます。
・理事・管理者の責任の範囲が、民法のルールを通じて比較的明確になる
・組合員は、「一定の法的義務に守られた理事」に管理を任せているという安心感を得られる
・理事会は、どこまで報告・説明しなければならないかの指針を持てる
・トラブルが起きたとき、「何を基準に責任を判断するか」の物差しが用意されている
つまり、マンションという共同生活の基盤を支えるための「見えない骨組み」として、
理事・管理者に関する基本ルールを整えているのが28条です。

実務でありがちな誤解と、28条から見た整理
誤解1:「理事はボランティアだから責任はない」
→ 責任はあります。

ただし、
「有償の専門家と同じレベルの厳しい責任を負うわけではない」
という点が、裁判例などで配慮されています。
求められるのは、
“無償の理事として通常期待される注意義務を尽くしたかどうか”です。

誤解2:「理事会が勝手に決めてよい」
→ 報告義務・忠実義務があるため、重要な事項については総会の議決を経たり、少なくとも十分な説明を行う必要があります。

理事会は「執行機関」であって、「何でも自由に決めてよい権限者」ではありません。
どこまで理事会決定でよいか、どこから総会決議が必要かは、規約や法令との関係で判断されます。

誤解3:「管理会社に任せているから、理事には責任がない」
→ 管理会社はあくまで“外部の受託者”であり、管理会社を選び・監督する最終的な責任は管理組合側(理事会)にあります。

民法の委任ルールを理事にも準用することで、
・管理会社を適切に監督する義務
・不自然な業務内容・費用についてチェックする義務
といった「監督義務」の存在がよりはっきりします。

まとめ:28条はマンション管理の“行動基準”を支える土台
区分所有法28条は、
・理事や管理者は、民法上の「委任」を受けた者と同じルールに従う
・その結果として、善管注意義務・忠実義務・報告義務・損害賠償責任といった枠組みが、管理組合にもそのまま適用される

という点を定めている条文です。
この条文のおかげで、
・理事の責任と義務
・理事会運営のあり方
・組合員への説明責任や情報公開の水準

といった、マンション管理の基本的な“行動基準”が成り立っています。

派手さはありませんが、トラブル対応や理事会運営を考えるうえで、実務的には非常に重要な「縁の下の力持ち」といえる条文です。

 

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